柔道整復師専門学校の規制緩和について
従来、柔道整復養成施設の新規開設は厚生省の行政指導により制限されていた。
・14校1学年定員1050名の総量規制
・受領委任の取扱いは各都道府県社団法人の会員のみ許可 等
柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件(概要)
厚生大臣が柔道整復師養成施設指定申請に対してした同指定を行わない旨の処分が,違法とされた事例
・ある学校設立希望者が、平成8年6月に福岡にて新規柔道整復専門学校設置許可申請書を厚生大臣に提出するも、柔道整復師の従事者数は相当増加している状況にあり、養成力の増加を伴う施設を新たに設置する必要性が見いだし難いという理由で新規参入を認めないとした。学校設立側は福岡地方裁判所に提訴し、平成9年10月に第1回裁判が開廷。その後、複数回の裁判を経て平成10年8月福岡地裁において柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件の判決が下され、以後、厚生省は養成施設指定規則さえ満たせば設置を認める方針に転換。
平成9年10月【第1回裁判開廷】(後、複数回開廷)
平成10年6月29日【口頭弁論終結】
平成10年8月27日 【判決】
・これによって他分野の専門学校や異業態からの参入が相次ぎ、1998年の14校から2013年4月には107校に急増、現代に至る。
当時の14校
・北海道柔道専門学校 [北海道] (現:北海道柔道整復専門学校)
・赤門鍼灸柔整専門学校 [宮城県]
・東北柔道専門学校 [宮城県] (現:仙台接骨医療専門学校)
・北信越柔道専門学校 [石川県]
・日体柔道専門学校 [東京都]
・日本柔道整復学校 [東京都]
・東京柔道整復専門学校 [東京都]
・東京医療専門学校 [東京都]
・帝京医学技術専門学校 [東京都] (現:帝京短期大学)
・大東医学技術専門学校 [東京都] (現:閉校)
・米田柔整専門学校 [愛知県]
・関西医療学園専門学校 [大阪府]
・明治東洋医学院専門学校 [大阪府]
・行岡整復専門学校 [大阪府]
経緯
平成8年7月2日【第1次申請】
養成施設の設立を計画。(平成10年4月1日設置予定)「柔道整復師養成施設指定認可申請書」を福岡県知事宛てに提出。
平成8年10月21日【審議会】
あん摩、マッサージ、指圧、はり、きゅう、柔道整復等審議会が開催。第1次申請は認めないという意見が出た。
・新設の必要性の不存在…柔道整復師の従事者数は相当増加している状況
・関係団体等の反対意見…柔道整復師が不足している認識はない。養成数の増加を招く今回の計画は不適切
平成8年10月28日【指定申請書通知】
養成施設としての指定を行わない方針の旨の厚生省健康政策局長の通知。
同年12月2日【第2次申請】
再度指定認可申請書を福岡県知事に提出→正式な回答得られず
※全国柔整鍼灸協同組合九州支部支部長、同組合理事長、JB日本接骨師会理事の各同意書を添付している。
平成9年4月1日【第3次申請】
設置予定日を平成10年から平成11年に変更し、指定認可申請書を提出
平成9年1月28日【福岡県私立学校審議会】
本件施設の専修学校としての設置認可について第1次審議が行われる。
→「第2次審議に移行することに問題はない」との答申
平成9年7月7日【公正取引委員会からの要請】
厚生省に法令的に具体的な根拠のない需要調節は競争政策の観点から問題である。このような運用を行わないよう要請。
平成9年9月12日【審議会の再開催】
12日付で次の意見を提出。
「公正取引委員会の要請は理解できるが、しかし、国民に適切な医療を提供する体制を整備することは医療行政の重要な柱であり、医療従事者の適正な需要を図ることが求められており、柔道整復師の養成に関しても医療保険・医療制度の今後の方をも念頭に置いて議論する必要がある。これらに加え。埼玉県、福岡県知事の意見も参考にしながら改めて議論したが、昨年の意見を変える必要はないとの結論に達した。」
平成9年9月30日【本件処分】
厚生省は申請に対して、「柔道整復師養成施設の指定についてはこれを行わない」こととし(本件処分)、その旨を学校設立側に通知。
[理由]
・柔道整復師の従事者数は相当増加している状況。養成力の増加を伴う施設を新たに設置する必要が見いだし難いため
・審議会より「認めることは適当ではない」との意見書が提出されているため
学校設立側が福岡地方裁判所に提訴
【柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件(福岡裁判)】
【争点】
本件処分の違法性の有無
【原告の主張】
・養成施設の指定基準は規則4条に示されており、本来、充足されれば養成施設の指定がされるが、本件処分の理由は合理性を欠き、規則記載の要件以外の要素の判断に取り込むものである。
・柔道整復師の従事者数の増加傾向は柔道整復師の需要を裏付けるものであり、増加の必要性を否定するものではない。
・福岡県等の九州地方や近隣地方においては柔道整復師の供給は不足している。
・九州地方に養成施設は1校もなく、受験資格を取得することが不可能な状況にある。
・柔道整復師の資格は国家試験の合格者に与えられるもの。全国的な柔道整復師の増大の有無は合格者数(合格定員)に連動するものであり、養成施設(受験者数)によるものではない。
・審議会の構成員は公正な判断を期待できるものではない。構成員は既存の柔道整復師を構成する団体、柔道整復師に関係する業種等の代表であり、柔道整復師の増加によって構成員の属する団体、団体所属員に不利益をもたらすと判断し異を唱えただけである。
・既存の権益の保護のための判断以外の何ものでもない。
【被告の主張】
・受験資格を制限しているのは柔道整復師が医療の一翼を担うものであり、一定水準以上の知識・技能を習得し、試験に合格した者でなければならないためである。
・柔道整復師の過剰が発生した場合、経営の不安定・施術の質の低下を招く恐れがあるため受験者数を調整する必要があり、学校・養成施設は文部大臣・厚生省お指定に係らしめることとされている。
・養成施設の指定については厚生省の広範な裁量に委ねられており、法の上では指定の要件は何ら定められておらず、規則において規定する基準は例示であって当該基準のみ行わなければならないものとは言えない。
・国家試験合格者を限定し、養成施設卒業者を多数不合格とすると、不合格者は多くの時間と費用を無駄に費やしたことになり大きな不利益を受けることになる。このため養成施設を指定することは合理性がある。
・審議会の構成員のうち、既存の柔道整復師を構成する団体、柔道整復師に関係する業種等の代表は5名で過半数に満たず、厚生・合理的な判断は期待できる。
【裁判所の判断】
・養成施設の指定に当たっては、一定の水準を備え、試験の受験資格を与え得る者を養成できるかを中心に判断するのが原則である。
・柔道整復師法(昭和45年法律第19号)の制定経緯,柔道整復師とその免許等において類似するあん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師等に関する法律(昭和22年法律第217号)19条1項があん摩マッサージ指圧師等の養成施設の認定,承認をしないことができる例外を設けているのに対し,柔道整復師法にはこのような規定がないため、所定の指定基準を充たしている以上、養成施設の指定を行わなければならないものである。
・柔道整復師が全国平均を上回っている地域において経営の著しい不安定化、施術の低下の招来適切な医療体制への支障は認められていない。九州・中国地方、四国地方の一部は不足が認められているので、養成施設を設置する必要性がないという判断は根拠が薄弱である。
・養成施設の指定に係る厚生省の運営は具体的な根拠のない需要調整であり、新規参入を不当に制限するものである。
・規定規則が充たされている以上、本件施設を養成施設に指定しなければならなかったものであり、本件処分は違法であり、取り消されるべきものである。
裁判例結果詳細 「柔道整復師養成施設不指定処分取消請求事件」:裁判所