自賠責保険の基礎知識 後編
交通事故で怪我をされた患者さまに対し、良く分からないまま対応をしている先生もいらっしゃるのではないでしょうか。知識が曖昧なまま施術・請求対応をしてしまうと、結果的に患者さまの不利益に繋がる可能性があります。自賠責保険をメインに、交通事故対応の基礎知識を掲載します。
強制保険と任意保険
交通事故の保険と言っても、さまざまな種類があります。患者さまから話を聞いたうえで、どの保険を使えばよいかを判断できるようにしましょう。今回は、その保険の中でも基礎的な2つの保険について解説します。
◆強制保険
法律で加入が義務付けられている保険です。車をお持ちの方は、自動車損害賠償責任保険(通称『自賠責保険』)に加入しておかなければならないと定められています。自賠責保険は、交通事故の被害者救済を目的とした保険であり、基本的に自分自身に適用される保険ではありません。補償される範囲は人身事故の賠償損害のみになります。
また、自賠責保険で支払われる金額は上限が定められており、通常の怪我の場合だと120万円が上限となっています。この金額は、病院・接骨院での治療費だけではなく、被害者への慰謝料、休業損害などの治療費関係以外もすべて合わせて最高120万円が支払われます。
軽度な事故・怪我であれば自賠責保険の補償額に収まることが多いですが、重度の怪我・後遺症が残ってしまった場合は自賠責保険ではまかなえない可能性があります。
◆任意保険
車を運転される方が任意で加入できる保険で、自賠責保険の上限額を超えてしまった部分を補償します。物損事故における自動車自体の損害や、自分自身の怪我などもこの任意保険で補償されます。
接骨院で交通事故の患者さま対応を行う場合、任意保険である保険会社の担当者とやり取りすることが多くなるでしょう。その際「一括請求でお願いします」と担当者から言われることがあります。この一括請求と言うのは、施術にかかった期間分の施術料金をまとめて請求してほしい、ということではありません。
この場合の「一括請求」というのは、【自賠責保険の請求と、任意保険の請求を、まとめてうち(任意保険会社)に請求してほしい】ということを意味しています。一括請求をした場合、自賠責保険が適用になる部分は、任意保険会社から後日、自賠責保険会社に請求されます。過失割合が低い、または過失がない場合は、一括請求になることが多いですが、過失相殺次第で選択される保険が変わってきますので注意が必要です。また、基本的に一括請求は、任意保険会社に対し毎月行うと言うのが暗黙のルールとなっています。
自賠責保険の算定基準
自賠責保険で支払われる賠償金について、内訳の項目別に解説します。怪我についての補償項目は、治療費関係・休業損害・慰謝料・交通費等が挙げられます。
◆治療関係費
病院での治療、鍼灸院や接骨院での施術などが含まれます。接骨院関係に焦点を当てると、「免許を有する柔道整復師、あんま・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師が行う施術費用は、必要かつ妥当な実費とする。」と規定されており、1回の施術につき〇円というような決まりはありません。しかし、施術代金のある程度の目安はあり、各損害保険会社が目安表で大体の料金を示しています。この目安表から大きく外れる金額だと、妥当な理由がない限り、支払いを拒否される可能性があります。
◆休業損害
事故により、会社等を休むことで収入が減る、または有給休暇を使用した場合の補償になります。1日につき原則5,700円が最低保証金額として算定されます。この休業については、家事従事者(主婦・主夫)も収入の減少があったものとみなされます。また、1日につき5,700円を超えることが明らかな(立証できる)場合は、19,000円を上限として算定されます。
休業損害の対象日数は、実休業日が基準となりますが、傷害の状態や実治療日数を勘案した治療の範囲内とされます。
基本的に、会社員の方であれば、勤務先が発行した休業損害証明書、自営業の方なら源泉徴収票、家事従事者の方なら住民票等が必要になります。
◆慰謝料
慰謝料は、裁判基準・任意基準・自賠責基準という3つの基準があります。今回は、自賠責基準について解説します。
自賠責基準では、病院・接骨院問わず通院・通所したものに対して、1日あたり4,200円が算定されます。総額の算定方法は2通りあります。
1)実治療日数×2(実際に通院・入院した日数の2倍)×4,200円
2)総治療期間(通院開始日から通院終了日までの日数)×4,200円
1)と2)の、いずれか金額の少ない方が算定額とみなされます。
◆交通費
実際に病院・施術所に通われた実費が支払われます。通院費の請求は、通院交通費明細書を通じて行います。公共交通機関を利用した場合は、自宅から病院・施術所までの最寄りの公共交通機関の料金を記載する必要があります。
車等を運転できるのなら、ガソリン代、駐車場代が支払われます。どこの病院・施術所に通ったか分かる書類とガソリン代、駐車場代等の領収書が必要になります。
公共交通機関が近くになく、車等を使用できない理由があればタクシーでの通院も認められています。しかし、タクシーを利用される場合は、利用する理由説明と領収書が必要になります。
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