接骨院での有給休暇取得の現状
円滑に接骨院を運営するためにも、柔道整復師・鍼灸師の休日は重要な要素です。ご存じのとおり、接骨院は、一般的なサラリーマンのように「土日休み」は少ないのが現状です。スタッフが安心して働ける接骨院になるには、労働環境も意識すべきでしょう。今回は、接骨院の休日や有給休暇の現状と、守らなければいけない法律について解説します。(公開:2020年10月8日、更新:2024年5月21日)
有給休暇の要件と日数
有給付与は、会社で独自に定めるルールではなく、法律で定められた労働者の権利ですので、院側が拒否することはできません。下記の要件を満たす労働者は、雇用形態にかかわらず有給休暇が付与されます。
【有給付与の要件】
・6ヵ月以上継続して雇用されている
・全労働日の8割以上出勤している
例えば、ある接骨院にフルタイムで勤務するスタッフがいるとしましょう。このスタッフが、6ヵ月以上継続して雇用され、出勤率が8割以上である場合、雇用者はスタッフに有給休暇を10日付与しなければなりません。
接骨院の法定休日
接骨院の休日は、勤務先によって「曜日や日数」が異なっています。院長に多い「週休1日(月4日)、4週6休」や、スタッフに多い「水曜か土曜に午後休み、日曜に1日休み」という週1.5休のケースが多く、「完全週休2日制」は、まだ少ないといえるでしょう。次は、法律的な内容を解説します。
【法定休日】
法定休日とは、労働基準法によって定められている、労働者が必ず取らなければいけない休日です。経営者(院長)は、労働者に「1週間に1日」あるいは「4週間に4日」の休日を与えなければいけません。
1.使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも一回の休日を与えなければならない。
2.前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。
引用:労働基準法第35条
法律に定められているのは「休日の日数」だけです。日曜日や祝日を休日にしなければいけない、というわけではありません。経営者(院長)が労働者に対して、法定休日を与えていなければ、経営者には「6カ月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金」が課されることになります。
【長期休暇】
年末年始・お盆・ゴールデンウイークを長期休暇にしている接骨院が多いようです。近年では「有休休暇」と組み合わせる接骨院も増えてきました。
「長期休暇の有無」は柔道整復師がしっかりとチェックする項目なのですが、具体的に「何日間」なのか、求人票に明示していない接骨院が多くあります。
もし、「求職者が来ない」とお悩みであれば、長期休暇や特別休暇の有無、具体的に「何日間」なのかを記載することで、求職者にアピールすることができます。
年間休日100日以上の接骨院も
近年の柔道整復師は、求人票をチェックする際に「年間休日」を意識しているようです。接骨院の年間休日で言えば、「70~90日」程度が多いのですが、近年は「100日」以上の接骨院も増えてきています。
接骨院は、幅広い症例に対応できるため人気ですが、どこでも良い訳ではなく、休日や労働時間を工夫している「働きやすい」接骨院が注目され、応募されている状況です。
「休暇」とは、スタッフが労働する義務がある日に、「労働しなくてよい」と会社が定める日です。休暇には、法律上一定の要件を満たす場合、必ず付与する必要がある「法定休暇」と、経営者が任意で与える「任意(特別)休暇」があります。
休暇をしっかりとスタッフに周知することで、柔道整復師の満足度が向上し、また求人票に明記することで、優秀な求職者を引き寄せやすくなります。
【法定休暇】
法定休暇とは、法律により定められている休暇です。それぞれの条件を満たしている場合に申請があれば、労働者に与える必要があります。
・年次有給休暇(時季変更権あり)
・産前産後休暇
・育児休暇
・介護休暇
・子どもの看護休暇
【任意(特別)休暇】
任意休暇とは、会社独自に与える休暇で、法律による定めはありません。
主な休暇は以下です。
・慶弔休暇
・研修休暇
・リフレッシュ休暇
・病気休暇
・ボランティア休暇
・バースデー休暇
任意休暇は法律に定められていないので、設けなければいけない休暇ではありません。よって、労働者に与えている接骨院は多くないでしょう。
独自に設けている場合は、求人票に明記することをおすすめします。柔道整復師の満足度向上や生産性アップにつながり、求人の際にもアピールポイントになります。
産前産後休暇が取りやすい環境に
労働基準法上で定められているとおり、接骨院においても、産前産後休暇は、取得させなければいけませんが、今も女性の柔道整復師・鍼灸師より、実際に取ることができるのか、多くのご質問を頂きます。
それほど女性施術者にとって注目が高い休暇と言えるでしょう。
しっかりと制度があると明記することで、女性施術者は安心して仕事ができ、多くの求職者を引き寄せることが可能です。例えば、実際に休暇を取得したスタッフのインタビューを載せることで、強く引き寄せることが出来るでしょう。
産前休暇は、出産予定日の6週間前から、請求すれば取得可能です。出産の翌日から8週間は働くことができません。ただし、産後6週間経過後に本人が請求し、医師が認めた場合は働くことができます(労働基準法第65条)。
予定日よりも遅れて出産した場合も、予定日から出産日は、産前産後休業に含まれます。なお、産前休業が延びたとしても、産後8週間は「産後休業」として確保されます。
言い出しづらい有給休暇の取得
接骨院の有給休暇については、大手では消化しやすい環境ですが、現実的には、なかなか取得しづらいかもしれません。
有給休暇は労働者の権利であり、取得する義務があるため、取得したいと言われれば拒否することはできません。逆に言えば、取得したいと言われなければ無理に消化させる必要がないとも言えます(後述、働き方改革の年5回は除く)。
日本においては、有給休暇が使えると分かっていても、「取得したくても怖くて言えない」「会社や仲間に迷惑がかかる」と考えて、有給休暇の消化を諦めている人の割合が多いと言われています。
現に、日本人の有給休暇取得率は50%と言われています。一見すると、約半数もの人が取得できていると感じますが、19カ国中で最下位の結果となっています(参考:エクスペディア「有給休暇に関する国際比較調査データ」)。
現場と相談のもと有給休暇を取れるとアピールすることは、施術者を引き付ける強力な魅力になるでしょう。
計画的に有休を消化する仕組み
まだまだ少人数で運営している院だと、院長・スタッフともに「有給を与えている(休んでいる)余裕はない」と感じられることもあるでしょう。
有給を付与しない(取得しない)わけにはいきませんが、有給を取得する時期の決め方や申請方法については、就業規則の中で各社のルールを定めることができます。
一例として、計画的に年休の時期を特定し、院の運営に差し障りない形で有休を消化する「計画年休」があります。計画年休とは、年次有給休暇のうち5日を除く日数について、労使協定を結ぶことで、企業側が労働者の有給休暇取得日をあらかじめ決められる制度です。
年次有給休暇に関する規定例を見てみましょう。
例:就業規則第〇条(年次有給休暇
会社は、労働者を代表する者等との書面による協定により、年次有給休暇のうち5日を超える日数について、あらかじめ時季を指定して与えることができます。その場合、次の日が対象となります。
(ア)祝日(国民の休日)
(イ)年末年始休暇
(ウ)その他会社が指定する日
このように規定することで、祝日や年末年始休暇など、すでにある休日・休暇を「有給休暇」に含めることで、院にとっても支障がない形で有休の消化を進めます。
ある院では、勤続2年以上のスタッフを対象とした「リフレッシュ休暇」の制度を設け、これも「計画年休」の中に組み込んでいるという例もあります。
接骨院における働き方改革
働き方改革関連法(2019年4月施行)により、規模に関わらず「年5回の有給休暇」を取得させることが義務付けられました。
働き方改革による「有給休暇の年5回取得義務化」は、多くの会社で有給休暇が取得されていない問題を解決するために定められたものです。働き方改革関連法案施行により、年10日以上の年次有給休暇が与えられている従業員に対して、年5日の有給休暇を取得させることが義務化されました。
有給休暇は原則として労働者が請求した日に与えなければいけませんが、義務化されている5日間の有給休暇については、使用者が指定して取得させることができます。ただし、指定する有給休暇の日にちについては、労働者から意見を聞き尊重するように努める必要があります。
院長先生のなかには、ご自身が若いとき有休休暇に馴染みがなかったのに、いきなり義務と言われて戸惑う方がいらっしゃるかもしれません。
ただ、すでに多くの接骨院で取り組まれており、未整備の場合は早期に対応する必要があるでしょう。早期の整備が柔道整復師の満足度を向上させ、求職者も引き寄せやすくなります。先生のなかには、「長期休暇の前後」と組み合わせて有給休暇を取得させている院もあります。
休日や有給休暇は、あくまでも経営を中長期的に成り立たせるための「労務整備」ですので、ご自身の接骨院の経営状況と照らし合わせて、少しずつ改善していくことをお勧めします。
柔道整復師・鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師がよりイキイキと働ける業界になることを心より願っています。
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